【元徴税吏員が解説】税金の時効は5年?放置しても消えない理由と対応

納税

「税金を滞納してしまったけど、放置すれば時効で消えるのでは…」と考える方も多いでしょう。元徴税吏員の経験から言うと、これは完全な誤解です。

法律では徴収権の時効は原則5年ですが、督促・差押え・納税の誓約などで、時効は中断・更新されます。この記事では、滞納処分の時効を正しく理解し、安心して対応できる方法を解説します。


税金の時効とは?

まず、時効とはどういうものかということから説明します。

テレビを観ていると、「罪を犯した犯人の時効が成立するまであと何年・・・」といったニュースなどを目にされたことがある方もいるかと思います。
あの場合は逮捕・起訴ができなくなり、法的に罪に問えなくなってしまうという意味での時効ですね。

税金の場合の時効というのは「徴収権の消滅時効」といって、法定納期限(実状は期別ごとの納期限)から一定の期間、地方団体が税金の回収のための行動をしなかった場合に成立するとなっています。

自治体は差押えなどの滞納処分はもとより、納税を受けることができなくなるため、納税者側としては税金を納めることができなくなるということになります。
仮に時効が成立した後に納付があったとしても、それは誤って納められたものとして処理され、還付(返金)されることになります。

原則は5年

法律に基づく税金の時効は原則、法定納期限から5年経過すると成立します。

令和2年度に課税された住民税(第1期分)の場合を例にすると、

法定納期限:令和2年6月30日

時効が成立する日:令和7年7月1日

となります。
令和2年度の住民税のすべてが時効を迎えるわけではなく、第2期分などの納期限がまだ5年を経過していないものについては時効は成立していません。

「それなら5年間、税金を納付せずにいれば納めなくても良くなるのでは?」と考える方がいるかもしれません。

しかし、これはあくまで「何も手続きを行われなかった場合」の話で、もちろん自治体はそんなことにならないように行動します。

私もよく研修会や諸先輩方に言われていましたが、「時効を迎えることは徴税吏員の恥だと思え」というの考えが基本的にあり、徴税吏員はあらゆる手を使って時効を止める(中断)します。

5年放置しても税金は消えない

そういう理由で、実際には役所が何もせずに5年放置して時効成立となることはまずありません

原則として、自治体は滞納となった税金を財産の差押えなどの滞納処分により早期解決させることになりますが、他にも時効の中断という方法により、時効そのものを止めることもできます。

時効の中断がされると、時効が文字通り止まり、中断した日から再び時効のカウントが5年間に戻ることになります。

そして、この時効を中断させる方法もいろいろあります。

  • 督促状の送付
  • 差押えなどの滞納処分が執行される
  • 債務の承認をもらう

これらのようなことがあると、時効は中断され、時効までの期間がリセットされます。

そうでなくても、延滞金の加算や差押えされるリスクも続くことになるため、滞納税を放置するメリットは何もありません。

速やかに完納するか、納付が困難な場合は早めに役所に相談するなどの対応が重要です。

次の項目から、時効が中断されるケースについて詳しく解説していきます。


時効が中断し、期間がリセットされるケース(一部)

時効の中断方法は色々あり、それぞれのケースで時効の中断期間が存在します。その期間が終了すると、期間終了の翌日から時効期間の5年のカウントが再スタートします。

時効の中断には民法を準用する考えのものと、地方税法に基づくものがあり、すべてのケースを説明するとかなり細かく難解になってしまうので、一部のケースのみ解説します。

督促

督促状は、発送した日から10日を経過した期間が中断します。

督促状の納付期限が10日後に設定されていることが多いので、この場合だと納付期限を経過すると時効期間が再スタートするということになります。

督促状は納期限を過ぎると20日以内には発送しないといけないと法律で定められているため、税金が滞納となった場合は、ほとんどすべて督促により時効中断することになります。

ですので、「督促状の発送が納期限後20日以内+督促状の納付期限10日」とすると、滞納となった税金は本来の法定納期限(多くの場合は期別ごとの納期限)から1ヶ月後くらいから5年経過で時効が成立するイメージです。

差押

給与や預貯金など、財産の差押えがされると時効中断となります。

この期間は、財産が取立て・換価されるか、差押えの解除がされるまで続きます。

時効も止まるし、滞納税の圧縮にもつながるので、徴税吏員としても財産の差押えが問題解決の最も正当な方法と言えるでしょう。

交付要求

交付要求でも時効は中断します。

交付要求はあまり聞き馴染みがないと思いますので簡単に説明します。

例えば、住宅ローンの支払いが滞り、担保権設定している金融機関から裁判所に申し立てがあった場合で考えましょう。

この場合は自宅が強制的に競売に発展します。そして、売れたお金(売却代金)は住宅ローンの弁済に充てられます。
住宅ローンをすべて弁済できた場合、本来は残ったお金(残余金)は手元に戻ってくるのですが、自治体にも滞納があると、交付要求という手続きを行うことになります。

交付要求があると、残余金が交付要求された滞納税に充てられることになります。それでも残りがあれば、残余金として交付されます。

別の自治体にも滞納があり、差押えがされてしまった場合も同様に交付要求することができます。

捜索(強制捜索)

差押え財産を探す目的で行われる捜索が行われると時効は中断します。

捜索というとテレビでたまに見かけるような、警察やマルサ(国税局の査察部)などが行うガサ入れのイメージがあるかもしれませんが、徴税吏員が行う捜索は少し違います。

警察などの捜査機関は裁判所からの令状が発行されないと自宅などの強制捜査をすることができませんが、こと滞納税の回収という名目であれば徴税吏員は令状を必要としません。
立会人などの条件はありますが、いきなり自宅に訪問して捜索を始めることができるなど、非常に強力な権限を持っています。

捜索が行われると、仮に差押えできる財産が発見できなかったとしても時効が中断します。

債務の承認

債務の承認をした場合も時効は中断されます。

これはどういうことかと言うと、
「この滞納税は私が納めるべき税金であることを承認し、誠意をもって納付していきます。」
という誓約を書面で交わすことです。

納税の相談をし、分割などの納付の計画を立てたときは、多くの場合でこう言った文章が含まれる「納付の誓約書」や「分納誓約書」といった書類の提出を求められます。

滞納されている方の中には「時効が止まってしまうなら誓約書は書きたくない」という方がたまにいます。

ですが、ちゃんと納付していくつもりが本当にあるなら、誓約書を書けない理由はないはずです。
せっかくまとまった分納の計画を取り下げられることになったり、財産の差押えに移行してしまうリスクを高めることにもなりますので、素直に誓約書を交わした方が無難でしょう。


まとめ

  • 税金(徴収権)の時効は法定納期限から5年経過で成立する
  • 自治体は時効を成立させないために、時効を中断させる手段をとる
  • 時効が中断されると、期間がリセットされ、時効のカウントが再スタートする
  • 督促・差押・交付要求・捜索・債務の承認などで中断される

滞納となった税金は時効まで逃げ切れるものではなく、差押えなどの滞納処分に発展すると生活に支障がでます。

延滞金が発生したり、社会的信用にも関わるなどのデメリットしかありません。

納期内の納付が困難な場合は、早めに自治体に相談するようにしましょう。

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