【元徴税吏員が解説】差押え対象財産まとめ|給与・預金・不動産・保険・売掛金の優先度と注意点

納税

「住民税などの地方税を滞納した場合、どの財産が差押え対象になるのか知りたい」
「自営業者の場合は給与以外にも差押え対象があるの?」

そんな疑問を持つ方は多いでしょう。この記事では、徴税吏員としての経験をもとに、差押え対象財産の種類・優先度・注意点を詳しく解説します。
読めば、滞納を放置した場合のリスクを理解し、事前に回避・相談すべき行動が整理できます。


差押え対象の基本:給与・預金・不動産・保険

給与

給与は最も優先度の高い差押え対象です。

  • 差押え可能額は、給与支給額や福利厚生によって変わりますが、目安として一人世帯の場合は10万円を残した残りが可能です。ご家族がいる場合、一人につき4万5,000円がそこに加算されます。
  • 財産調査の段階で、勤務先に勤務実態の調査が入る場合があります。この段階で税金の滞納があることが会社に伝わります。
  • 勤務先に徴税吏員が直接訪問して会社の代表者や給与担当に対して手続きを行うこともあります。
  • 国税徴収法を準用する地方税法に基づき、差押え可能額の計算方法が定められており、生活に最低限必要な額は差し引かれます。支払われる手取り全額が対象ではありません

実務体験例
会社に直接訪問し、社長さんと顧問弁護士さんを相手に「従業員の方に税金の滞納があるので、お給料の差押えをします」と説明し、毎月の給与から必要最低限を残し差押え、短期間で完納に至った事例があります。

 住民税は収入がないとほとんど発生しない税金です。一般的に住民税を滞納される方は給与収入があるというパターンが多く、役所の持っている情報から勤務先を特定することも容易です。収入の大元でもあるため、他の財産が見つかっても優先して差押えの対象となることがあります。
 また、民法の給与差押え可能額は給料の4分の1というものがあり、その金額と混同されている方も多いですが、住民税などの地方税に適用される差押可能額は別の法律ですので、注意が必要です。
 給与の差押えがされると給与から天引きされた残りが手取りとして入金されます。手続きの関係上、役所へ送金する金額の計算や書類のやり取りなど、会社にとってはかなり面倒で余計な手間が発生します。会社に税金を滞納していることが伝わるだけでなく、会社からの信用を失うことになりますし、滞納されている方にとっても会社にいづらくなるなど、給与の差押えは多方面で影響が出やすい財産であると言えます。


預金(普通預金・定期預金)

銀行口座も差押え対象です。

  • 預金額は1円単位で差押え可能とされています。
  • 差押えされた金額分が口座から出金できなくなります。
  • 口座自体は使えるままであることが多いです。
  • 複数の口座を保有していても、全ての口座が調査されることがあります。
  • 差押えを逃れるために家族の口座などに預金を移していても、本人が利用している口座と判断されれば差押えされます

実務体験例
比較的少額な滞納の場合、預金を差押え対象とすることが多かったです。お金が必要になり、ATMで出金しようとしても引き出せず、そこで差押えされたことに気づき、慌てて役所に行くというパターンが多いでしょう。

 恐らく差押えの件数が一番多い財産ではないでしょうか。預金差押えは即金性があるほか、勤務先などに知られないなど、滞納されている方にとっても社会的な影響が少ない財産です。そのため、滞納を解決できる財産が複数ある場合は、徴税吏員も最初に選択する財産となるでしょう。
 家族名義の口座を差押え対象とされるケースもあり、注意が必要です。
 差押えがされると、通帳に「差押」や「サシオサエ」などの文字と共に、いくら差押えされたのかが記載されます。銀行に問い合わせをすると、どこからの差押えなのか教えてくれるようです。
 次の機会に詳しく解説しますが、住宅ローンなど銀行に借入れがある場合、銀行にお金を借りる時の契約(「銀行取引約定」と言います。)を理由にして、差押えを理由にローンの一括弁済を求められることがあります。


不動産(土地・建物)

  • 差押えの優先度はやや低めですが、分割納付を認められても担保として差押えがされることがよくある財産です。
  • 自宅を差押えされたからと言って、引越しをしなければいけないというわけではありません。今までどおり問題なく生活できます。
  • 差押えた不動産を換価する(お金に換える)場合、公売というオークションのような手続きをして買い手を決めます。
  • 公売の手続きには時間がかかり、買い手が見つからないなど確実に換価できるとは限らないため、給与・預金の差押えより優先順位が低いことが多いです。
  • 不動産の差押えは登記簿への記載が必要で、手続きが少し複雑です。

実務体験例
個人的に預金の次に多く差押えした財産です。徴税吏員になって一番最初に差押えた財産でもあります。分割での納付を認める代わりに、担保として不動産の差押えをすることも多かったです。約束を守っていれば公売にかけるなど、それ以上のことは行われません。

 多くは持ち家を所有することが多いため、自宅が差押えの対象となることが多いでしょう。差押えされたからと言ってすぐに自宅が使えなくなるわけではありませんので、今までどおり使用することができます。差押えは自由に売ったりできないように財産を押さえる行為だからです。
 固定資産を所有していると固定資産税が発生します。この税金はその性質から他の税金を滞納するよりも悪質であると判断される場合があります。住民税など日本で暮らしているだけで自然に課税される税金と違い、固定資産税は望んで資産を所有しないと発生しない税金だからです。そういう考えを持っている自治体では、固定資産の差押えも積極的に行っていると思います。
 不動産の差押えは登記簿に記録が残るほか、その建物が住宅ローンなどの担保に既にされている場合は、その担保権者(銀行など)にも差押えの通知がされます。


生命保険・解約返戻金

  • 保険契約というよりも、解約時に受け取る返戻金が差押えの対象になります。
  • お金に換える手続きをされる場合、保険契約が解約され、その解約返戻金を取立てされます。
  • もちろん保険契約が解約されると、万が一の保障がなくなってしまうことになります。
  • 保険契約を守る「介入権」という制度があります。条件はかなり厳しいですが、保険契約を維持して差押えの解除ができます。

実務体験例
掛け捨てではなく、貯蓄性の高い保険契約があると、徴税吏員は「税金を納めなかったお金を貯蓄しているんだな」と判断し、保険契約を解約し、解約返戻金を取立てします。特に「終身保険」「養老保険」「学資保険」「年金保険」は解約返戻金が積み上がっていることが多いです。アメリカドルなど、ほとんど投資目的で積立てされている外貨建ての保険などの場合も多く差押えしてきました。

 一時期はとても多くの差押えがされていたこともあり、保険契約を守るために「介入権」という制度が作られました。1ヶ月間で解約返戻金相当のお金を納税できれば、保険契約を残しておけるという制度のため、条件はかなり厳しいと思います。この制度で保険の差押えを控える自治体もある一方、介入権という制度の存在のおかげで(滞納されている方が保険を諦めるか諦めないかを選択できるようになったため)、逆に積極的に差押えができるようになったと考えている自治体もあるようです。
 解約後に保険の入り直しをしても保険料が増えていたり、そもそも保険に入れなかったり、同条件の保険が既になくなっているなど、元に戻せる可能性はかなり低いでしょう。


自営業者・フリーランス向け:売掛金の差押え

  • 取引先に差押え通知を送付したり直接訪問して入金予定の売掛金を差押えします。
  • 取引先に滞納があることが伝わるため、信用問題としてはほかの財産とは比較にならないほど致命的です

実務体験例
隣の都道府県の会社と取引していることが分かり、アポなしで直接訪問して売掛金の差押えの手続きをしたことがあります。取引先から「あの人にはもう仕事を任せられない」という話になり、やむを得なかったとは言え社会的にも大変な信用問題に発展してしまいました。

 自営業者やフリーランスの場合、給与や預金に加え売掛金(将来入金予定の売上債権)も差押え対象となります。会社で雇われている従業員であれば税金の滞納を理由に解雇することはできないことになっていますが、取引先となると話は別のようです。
 説明するまでもない話ですが、取引が止まると資金繰りに大きな影響が出ますし、自営業が立ち行かなくなる可能性もあります。


その他の差押え対象財産

  • 自動車・オートバイ:高級車などの場合は特に可能性大
  • 動産(貴金属・ブランド品・骨董品など):現金化可能な資産は差押え対象
  • 年金・退職金:給与と同じように差押え可能
  • 株式:上場・非上場関わらず、株式も現金化可能なため差押え対象
  • 出資持分やゴルフ会員権:信用金庫の出資持分や会員権などの払い戻し金が対象

 あなたの家の換価価値のあるものや、お金を受け取る権利のほとんどは差押えの対象です。生活していくために必要な支出の後は、何よりも納税を優先しなければいけないという考えが前提であるため、滞納税を回収する法律や方法は本当にしっかり整備されています。


差押えを回避するためにできること

督促状を受け取ったらすぐに確認

納付額・納期限を正確に把握します。

納付が難しい場合は役所に相談

  • 分納(分割払い)
  • 納税誓約書の提出
  • 徴収猶予制度の利用

放置せず行動する

相談に来た人には柔軟に対応されるケースが多いです。
連絡をしない人ほど差押え対象にされやすいです。


まとめ

  • 差押え対象は給与・預金・不動産・生命保険・売掛金・その他動産など幅広い
  • 差押えされる財産の優先度は徴税吏員の判断によるところが大きいですが、滞納額や解決までのスピード、社会的リスクを考慮して決まります。
  • 少額でも差押えの対象になることがある
  • 自営業者は売掛金の差押えリスクにも注意が必要
  • 早めの納付・役所への相談が差押え回避の最も効果的な方法

👉 不安を抱えている方は、一人で悩まず、まずは役所や専門家に相談することをおすすめします。

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