導入
住民税を滞納した場合、「自宅を差押えられてしまうのでは?」と強い不安を抱く方は少なくありません。
不動産の差押えはすぐに退去を迫られるものではありませんが、登記簿に記録が残り、場合によっては公売にかけられることもあります。
差押え財産の全体像については、差押え対象財産まとめの記事で解説しました。本記事では、不動産差押え(主に土地と家屋)に焦点をあて、仕組みや生活への影響、公売までの流れを詳しく解説します。
不動産差押えの基本
- 差押えられても、すぐに自宅から退去する必要はありません。
- 登記簿に「差押え」が記録され、社会的影響が大きい財産です。
- 自由に売却や贈与などの処分ができなくなります。
- 分割納付を認める場合の「担保」として差押えされるケースも多くあります。
差押えは「財産を処分できないようにする」行為であり、生活を直ちに制限するものではありません。そのため自宅が差押えされてしまっても、原則はそのまま使用することができます。
納付の計画を守らなかったり、差押えされても何の反応もなかった場合、滞納処分(差押え → 換価手続き → 滞納している税金に充当)が進んでしまう可能性もあります。
公売(こうばい)と競売(けいばい)の違い
不動産を現金化する際には「換価手続き」が行われます。
- 公売:公的機関が行う入札・せり売り形式の換価手続き(住民税などの地方税滞納で用いられる)
- 競売:裁判所が関与し、金融機関などの民間債権者が請求する換価手続き
住民税滞納の場合、基本的に実施されるのは「公売」です。公告・入札・売却決定という流れで進みますが、買い手が必ずつくとは限らず、手続きには時間がかかります。
どちらかと言うと会場を設けた公売では入札制が多く、インターネットで行われる官公庁オークションではせり売り(オークション形式)の公売が多い印象です。
また、自治体は滞納税の回収を目的として公売を実施するため、高く売れるよりも財産を処分することが優先されます。
そのため、相場よりもかなり安く売れてしまうケースも多いです。
自宅を売却せざるを得なくなってしまった場合は、公売される前にご自身で任意売却してしまった方が結果的に手元に多くのお金を残せることが多いでしょう。
公売までのおおまかなスケジュール
不動産差押えから公売に至るまでの一般的な流れは以下のとおりです。
- 差押えの実施
登記簿に差押えを記録され、納税者に差押通知が送付されます。 - 換価猶予の検討
分割納付の相談や猶予の申請があれば、担保差押えの状態で様子を見ます。 - 公売手続き開始
分納不履行や滞納額の増加などで、公売が公告(広告などに掲示)され、自治体のHPや広報誌に公売情報が掲載されます。 - 入札・開札
会場を設けた公売や、インターネット公売で入札者を募ります。 - 最高価申込者の決定・代金納付・権利移転
一番高い金額で入札した人が最高価申込者となり、売却代金が納付されます。代金は滞納税に充当し、所有権移転登記が行われます。
※相談後に担保提供の流れだと1.と2.は逆になります。
👉 実際には、差押えから公売公告まで半年以上かかるケースも多いです(私も最短で3ヶ月は時間を要していました。)。納税者にとっては、長期間にわたり精神的な負担が続く手続きとなります。
住宅ローンがあると公売されない?
住宅ローンがある場合、登記簿には担保権設定というものがされています。住宅ローンの返済が滞った場合、担保にしている土地や家屋を売られてしまうことによって債務が弁済されることになりますよね。
住宅ローンが残っている状態では滞納税の回収が見込めないため、自宅が公売されることは無いと思っている方も一定数いらっしゃるようです。
結論としては住宅ローンが残っていても、不動産公売されることはあります。
住宅ローンの返済が進んでいれば、公売によって得られた売却代金を滞納税に回せるためです。
では住宅ローンが残っている状態で不動産が差押え・公売となってしまった場合は、得られたお金はどんな順番で配当されるでしょうか。
原則は滞納処分にかかった経費に配当し、次に登記簿の権利部(乙区)に記録された日付が古い順番に配当されます。
例を挙げると以下のとおりです。
例)住宅ローンの担保権設定後、税金滞納により不動産が差押えされ、公売に至った場合
- 最初に不動産の鑑定費用や広告にかかった滞納処分費に配当されます。
- 次に不動産に抵当権が設定されている場合、銀行など担保権者が優先的に配当されます。
- その次に滞納となっている税金に配当されます。
少し難しい話になりますが、滞納税の法定納期限等(納期限とは違います)が住宅ローンの担保権設定より古い場合は、古い滞納税相当額のみ不動産の抵当権に優先して滞納税に充てられるケースもありますが、あまり深く考えなくて大丈夫です。
要点としては、税に優先する私債券(この場合住宅ローン)があっても、滞納となっている税金が少しでも回収できることが分かれば公売になる可能性があるということです。
👉 「住宅ローンがあるから安心」とは言えず、かえって金融機関に知られることで不利益が広がることもあります。
自治体ごとの運用の違い
不動産差押えの実施方針は、自治体によって異なるようです。
- 自主的に納付していくことを重んじる自治体 → 換価の猶予を認める時に担保目的として差押えする
- 預金や給与から十分に回収できると判断する自治体 → 不動産の差押えは他に財産が何もない時の最終手段
- 固定資産税の徴収に厳格な自治体 → 固定資産税が課税されている大元であるため、不動産差押えや公売を積極的に実施する傾向がある(私はここでした)
特に固定資産税は住民税や国民健康保険税と違い、「資産を持つ意思のある人が負担している税金」であるため、滞納が悪質とみなされやすく、不動産差押えに直結しやすいのが特徴です。
実務体験例
他の都道府県の徴税吏員の方と交流した時、私が在籍していた地域の公売実績の多さに驚かれていたことがありました。あちらの地域では不動産の公売は最終手段として、代わりに自宅の強制捜索や動産の差押えに力を入れていました。地域や自治体によって徴税の手法も違うんだなと感じた一件でした。
実務体験談:公売に至ったケース
私が担当した中には、自宅が実際に公売にかけられた案件もあります。
ある納税者は、預金や給与からの回収が難しく、滞納額が数百万円規模にまで膨らんでいました。そこで不動産差押えを実施しましたが、当初は分納により滞納税を完納する計画を前提としていたため、差押えした不動産は「担保」として様子を見ました。
しかし分納が守られず、税金よりも住宅ローンの返済を優先されていました。
納得できない方もいるでしょうが、納税は最低限度の生活費を除くと借入の返済よりも優先しなければいけないものです。
再三の催告にも応じられなかったため、最終的に住宅ローンが完済された自宅の公売を行わざるを得ませんでした。
公売公告が出ると近隣住民や関係者の目にも触れることとなり、納税者本人や家族にとって大きな精神的負担となります。
実際に売却され、新しい所有者が決まり、家から退去することになってしまいました。
よくある質問(Q&A)
Q1. 差押えられたらすぐに家を失うのですか?
A. いいえ。差押えは「売却できないようにする」手続きであり、すぐに住めなくなるわけではありません。生活は今までどおり続けられます。
Q2. 公売にかけられたら必ず売却されるのですか?
A. いいえ。公売は入札方式のため、買い手がつかなければ売却が成立しません。複数回の公告を経ても成立しないケースもあります。買い手が現れても買受代金の納付までに滞納税を納め切ることができれば不動産の差押えは解除され、公売自体もなかったことにできます。
Q3. 家族や近所に知られてしまいますか?
A. 知られる可能性が高いです。登記簿に差押えが記録され、公売公告が自治体の掲示板やホームページ、広報に掲載されます。そのため完全に秘密にすることは難しいでしょう。
Q4. 公売まで進むのはどんな場合ですか?
A. 預金や給与からの回収では完結が見込めず、納税していくことに対して誠意ある対応が見られなかった場合には公売に至ります。多くは担保差押えの段階で止まりますが、滞納額が高額な場合や悪質な滞納者と判断されると公売に進むこともあります。
Q5. 不動産差押えを避けるにはどうすればいいですか?
A. 完納が難しい場合は、督促状が届いた段階で役所に相談し、分納や猶予の手続きをとることです。早い段階で行動すれば、公売まで進むのを防げるケースが多いです。
まとめ
- 不動産差押えは「すぐに住めなくなる」ものではないが、登記簿への記載や公告によって社会的影響は大きい
- 公売は差押えから半年以上かかるケースが多く、長期間にわたり精神的負担が続く
- 住宅ローンがある不動産は原則金融機関への債務が税に優先する(古い税が優先される例外あり)
- 自治体によって不動産差押えの積極性には差があり、特に固定資産税滞納では厳しく扱われる傾向がある
- Q&Aのとおり「差押え=即退去」ではなく、相談すれば回避できる道も残されています
👉 不動産を守るためには、何よりも 早めの相談と行動 が大切です。
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