【元徴税吏員が解説】徴税吏員とは?役割・権限・仕事の実態をわかりやすく紹介

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「徴税吏員(ちょうぜいりいん)」という言葉は、一般の方にはあまり馴染みがありません。
しかし、住民税や固定資産税などの滞納整理を担当し、滞納者の財産を調査する権限や差押えの権限を持つ役所や都道府県庁の職員が徴税吏員です。
本記事では、元徴税吏員の立場から、その役割や権限、実際の仕事について解説します。


徴税吏員とは?

  • 吏員りいん」は地方公務員と同じ意味と思って良いです。役所の職員でもピンと来ない人もいるような、少し古い表現になります
  • 徴税吏員とは吏員の中でも税金の賦課ふか(負担させること)と徴収ちょうしゅう(取立て)の事務を担当する職員です
  • 地方税法の規定に基づき、都道府県知事や市町村長から「徴税吏員」として任命された職員(※都道府県知事や市町村長も徴税吏員にあたります。)
  • 徴税吏員に任命されると、徴税吏員証という職員証は別の証票が交付され、業務中は常に携帯することになります(警察手帳のような使い方をします。)
  • 一般的な職員とは異なり、財産調査や差押えといった強制力の強い権限が与えられています

つまり、住民税や固定資産税の納税の通知をしたり、滞納が発生した場合に対応するのが徴税吏員です。

よくテレビで税金回収Gメンと呼ばれて報道されている人は、全員もれなく徴税吏員(もしくは国税回収の徴収職員)です。
日本テレビさんのドラマで「ゼイチョー」というものがありましたが、あれも徴税吏員のお話ですね。
昨今のメディアでの取り上げられ方もあり、どちらかというと徴収に関する事務を行なっている職員という印象が強いかもしれません。

この記事でも徴税吏員 = 滞納税を回収する職員として解説していきます。


徴税吏員に与えられている権限

徴税吏員は、法律に基づき次のような権限を持ちます。

  • 本人や銀行、勤務先などへの財産調査(質問検査権)
  • 預金・給与・不動産などの滞納者に帰属する財産の差押え
  • 換価手続きなどの滞納処分の執行

これらはすべて「税金の公平な負担」を守るためのものであり、個人の判断で滞納処分を執行できる「自力執行権」を職員個人レベルで持つという特徴があります。
例えば警察やマルサ(国税局の査察部)などは裁判所からの令状が発行されないと自宅などの強制捜査をすることができませんが、こと滞納税の回収という名目であれば徴税吏員は令状なんて必要なしでいきなり自宅の捜索を行うことができるなど、強力極まりない権限を持っています。


徴税吏員の主な仕事(徴収事務)

相談対応

  • 窓口や電話での分納相談、納税誓約の取り付け
  • 支払えない事情を聞き取り、分納や徴収猶予を検討

ただし、相談を受ける仕事も分納計画の作成も必ずやらないといけないわけではなく、あくまで差押えなどの滞納処分を執行するよりも、自主的な納付をしてもらった方がメリットがあると判断した場合になります。

財産調査

  • 金融機関・勤務先・取引先・年金事務所・保険会社などへの照会
  • 資産や収入状況を把握し、滞納整理の基礎情報とする
  • 必要とあれば自営業者のお店に客として入り込みますし、ヤクザの事務所にも突入しますし、離島でも国外でも関係なく調査します(していました)

滞納処分(差押え → 換価手続き)

  • 預金や給与、不動産などの差押えを実行
  • 差押えした財産を換価して滞納している税金に充当する

👉 徴税吏員の仕事の本質は強制力のある「滞納処分」になります。


人気がない仕事と言われる理由

徴税吏員の仕事は、役所の中でも敬遠されがちです。だいたい以下の理由で役所の異動したくない部署ランキングでは常に上位です。

  • 住民の生活やプライバシーに深く踏み込み、時には財産を差押えるという厳しい業務
  • 人の人生に直接影響を与えるため、精神的な負担が大きい
  • 差押えなどの仕事をこなすほど、滞納者とのトラブルや衝突が増えることもあり、ストレスが多い
  • 近所で買い物していると、昨日差押えして怒鳴り込んできた人とばったり会う
  • 地元就職ですと、まさかの知り合いや友人のお父さんが滞納していたりするとちょっぴり凹んだりします

👉 実際、私の周囲でも「徴税の担当になりたくない」「毎日怒鳴られて大変だね」と言う職員が本当に多かったです。

しかしその一方で、

  • 納税の認識を改めてもらい、自主的に納税していただける納税者を増やす機会に立ち会える
  • 法律の知識や実務スキルの習得
  • 創意工夫で難しい案件を解決したときの達成感
  • 怒鳴られても怒られても、ちょっとのことでは動じない鋼のメンタルが身に付く、など

といった他の部署では得られない経験ができる仕事でもあります。
私も最初はおっかなびっくり仕事していましたが、2〜3年もすると「住めば都ってこういうことだな」と思い、若手職員へ異動希望先に勧めたりしていました(誰もきませんでしたが)。
だいたい役所の若手は3年くらいで異動するものですが、「誰もやりたがらないけど、ススマルのやつは居心地良さそうにしているな」と上層部が判断したのかは分かりませんが、私は約10年も在籍したわけですね。


実務体験談

私自身、徴税吏員になった当初は「差押え」とか「滞納処分」という言葉の重さに戸惑いました。
初めて財産の差押通知を発送したときも、人の生活に踏み込む行為に、その日の夜は「明日怒鳴り込まれるんじゃないか」と緊張したのを覚えています(もちろん怒鳴り込まれました)。

一方で、窓口に相談に来た方々から詳しく話を伺うと、

  • 「納付したいけどできない」という事情があったり
  • 納付の方針がまとまると「相談ができてほっとした」と気持ちが前向きになってくれたり
  • めちゃくちゃ怒鳴り込んで言い争いみたいになったのに、話がまとまるとヤケにフレンドリーになる人もいたり

共通して言えることは、たぶん、みなさん「何とかしたい」けど難しいことや分からないことが多くて不安になっているんだと思います。
もっと早く相談してもらえていればな、と思うこともたくさん、というかほとんどそうでした。

この記事をご覧になっていて、まさに今税金を滞納していて不安を抱えている方がいましたら、速やかに納税の相談をしてください。
その「何とかしたい」という気持ちを正しい方向へとお示しすることが徴税吏員という仕事の大変さと同時に、大きなやりがいだと思っています。


まとめ

  • 徴税吏員は地方税法に基づいて任命される、税金の滞納整理の専門職員
  • 財産調査や差押えの権限を持ち、滞納整理を行う。
  • 住民と揉めることが多いため役所内では人気がないが、やりがいも大きい。

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