「差押通知書が届いたけど、すぐに財産を取られてしまうの?」
「差押予告と本差押えはどう違うの?」
そんな不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
本記事では、徴税吏員としての経験をもとに、差押通知書(差押調書謄本)が届いた後の流れ、予告と本差押えの違い、そして取るべき対応を解説します。
簡単に整理すると、差押予告と本差押えの違いは
少し複雑になってしまうので、まず、差押予告と本差押えの違いを完結に整理するとこんなかんじです。
差押予告
- 近々差押えを行う予定があることを知らせる書類
- 滞納者に「最後の機会」を与える意味合いが強い
- ここで相談すれば、分納など柔軟に対応してもらえる可能性がまだあります
本差押え(差押調書(謄本))
- 実際に財産(預金・給与・不動産など)を差押えたことを通知するもの
- この段階では財産がすでに制限されているため、滞納税を完納しない限り、すぐに解除するのは難しいです
- ここまできてしまうと、相談をしても応じてもらえないことも多いです
💡 実務感覚:予告が届いた時点で放置していると、高い確率で差押えに移行します。
次の項目で、差押予告と本差押のそれぞれの状況について詳しく説明します。
差押予告通知書とは?
差押予告通知書は文字どおり差押えをすることを予告する通知です。本来の納期限を過ぎてしまい、督促状や催告書を発布しても納付されない時期に送付される書類です。督促状とは違って法律で必ず出さなければいけない通知では無いので、この通知がこなくても予告なく差押えが執行されることも多いです。
自治体側がこの書類を送付する場合は、以下のような状態になっています。
- 差押えを行う予定があることを知らせる、いわば差押え前の「最後通知」
- この通知が届いたということは、財産調査が完了し、差押えする準備が整ったということ
- 給与や年金、売掛金など、確実に押えられる財産を把握している
- まだ、ここで相談すれば、分納など柔軟に対応してもらえる可能性があります
自治体によっては、送られてくる封筒も派手な赤色などのいかにも危険そうな見た目のものになっています。絶対に放置せず、中身を確認してください。
恐らく、差押予告通知書の文面はこんなかんじです。
あなたの滞納税について再三にわたり督促・催告により自主的な納付をお願いしていましたが、今だに納付されておりません。このままでは税の公平性 〜 略 〜。
つきましては、下記指定期限までに必ず納付してください。指定期限までに納付されない場合は、法律に基づき、差押え等の滞納処分を執行しますので、ご承知おきください。
指定期限 〇〇年△△月□□日
たぶん、文章的にはすごく冷たい突き放すような印象を持つと思います。自主的な納付を期待して解決できる段階ではないと徴税吏員も考えており、粛々と本来の業務(滞納処分)を行うことのみが記されているでしょう。
この段階までくると、連絡をしても相談に応じてもらえず、指定期限までに納付しない限り滞納処分が止まることがない可能性が高いです。ですが、一括での納付ができない場合は、役所の方針を確認する意味でも必ず連絡するようにした方が良いでしょう。
また、例え一括納付をしたとしても、役所側が納付の確認ができるまでにはタイムラグ(納付の方法や場所によっては一週間くらい)があります。そうすると、せっかく納付が完了したのに時間差で勤務先に連絡がいき、滞納していることが会社に伝わる事態も考えられます。そういった意味でも納付が完了したら役所へ連絡しておいた方が良いでしょう。
実務体験例?
何十年も昔の話ですが、自主的な納付を促したい(滞納処分をしたくない)職員が、半ば脅しをかけるような形で差押予告通知書を連発していた時代があったそうです。
納付があれば儲けもの、納付がなくても滞納処分をせず、またしばらくしてから差押予告通知や催告書を送る、みたいなかんじですね。
今となっては考えられない行為で、あまりのひどさから現役時代の私たちは「やるやる詐欺」と呼んでいました。
しかし、今はどこの自治体も厳しいお財布事情になっており、財源を確保する目的でも滞納整理にもかなり力を入れるようになっています。差押予告通知書は本当の意味で最後通告と考えた方が良いでしょう。
差押通知書とは?
税金を滞納している場合、徴税吏員は滞納者の財産を差押えることができます。
わかりやすいように「差押通知書」という表現を使っていましたが、本来差押通知書を受け取るのは預金や給与を差押えされた場合のその支払い側(第三債務者と言います。)のことで、つまり銀行や勤務先になります。
その際に、その事実を伝えるために滞納者本人が受け取ることになるのが「差押調書(謄本)」です(不動産の差押えは「差押書」)になります。)。「調書」とは差押えした時の情報を記録するもので、自治体側で保管する文書になり、「謄本」はそれを写し取った書類となります。
差押調書(謄本)が届いたということは、何かしらの滞納者の財産が既に差押えされていることを意味します。差押予告通知書とは違い、どの自治体も似たようなテンプレートで色々な情報が枠の中に表記されています。
書類には、だいたい以下のことが記載されています。
- 日付(差押えした日)
- 根拠法令
- 滞納者の住所(会社等の場合は所在)と氏名(会社等の場合は名称)
- 滞納金額(滞納税目が多い場合は2枚目以降に一まとめにされていることもあります)
- 差押えた財産が何か、第三債務者は誰か(情報が多いときは2枚目以降にまとめられます)
- 履行期限(即時・請求があった時に即時・具体的な日付 など)
- 教示文(不服がある場合の審査請求の方法 など)
6つ目の履行期限についてですが、これは納期限とは違い、第三債務者に与えられた期限になります。お給料を例にすると、納税者は会社から働いた分の給与を受け取る権利があります。差押えはその権利に待ったをかけて行為です。履行期限は権利に対して取立てを行う期限になります。
差押えまで進んでしまうと、原則、滞納税を延滞金分も含めてすべて納め切らない限り解除されません。
どの財産が差押えされたかにもよりますが、このタイミングで分納(分割納付)の相談に行っても、「一括納付してもらえないのであれば、差押えした財産を取立てします。」と冷たくあしらわれてしまうこともあるでしょう(徴税吏員も心を鬼にして仕事をしています。)。
何度も督促や催告したにも関わらず納付も連絡もなかったとなると、役所としても信用できない人だと判断せざるを得ません。下手に分納を認めて約束を破られてしまう(不履行)されるくらいなら、確実に税金の回収が見込める給与の差押えなどをした方が取り損なうこともなく早期に完結できる、となりますよね。医療係のドラマによくあるセリフで「何でこんなになるまで放っておいたんだ!」というのがありますが、まさにそんな状況ということです。
ただし、差押えした財産の種類と相談結果によっては、分納や猶予が認められ取立てを保留してもらうことができます(解除はされないでしょう)。この場合は、差押えた財産は不履行時の担保のような扱いとなります。これは担当者の状況判断や役所の方針によりけりといった感じですね。
差押えの通知が届いたらどうなる?
差押えされた財産ごとによって違いますが、基本的には差押えした財産を換価し、滞納税に充てる行程に入ります。
例を挙げると、
- 預貯金 → 引き出し制限、差押えした預貯金額の範囲で取立て
- 給与 → 勤務先に通知が届き、給与支給日に天引き
- 不動産 → 登記簿に記録され、売却や解体などが制限される、公売により換価手続きされる
といった流れになります。
差押通知が届いた時点で、すでに財産の処分が制限されているため、対応はより難しくなります。
特に預貯金の差押えは、先ほど説明した「履行期限」が「即時」となっているケースも多いです。これは、差押えと同時に預貯金の取立てがされていることを意味します。
上記の場合を除けば、相談によって一部解除や分納への切替が認められるケースもあります。
実務体験例
私が徴税吏員として担当していたとき、催告書や差押予告通知書を送ったにもかかわらず、まったく連絡がなかった方がいました。
利用されている金融機関は分かっていたので、やむを得ず預金残高の差押えを執行し、滞納となっていた住民税に充てました。後日、その方が窓口に来られて強い抗議を受けました。
お子さんの塾代や携帯電話の使用料などが残高不足になり口座振替ができなくなったため、仕事を休んで慌てて来庁されたとのことでした。
「こんなに急に差押えされるとは思わなかった」「もっと丁寧に連絡をするべきだ」と話されていました。
しかし、何度も通知を送っていましたし、これ以上引き伸ばす理由もありませんでした。話し合いの機会も通知の度にあったわけで、予告の段階で相談していただければ分納などの対応も可能だったのです。
結局、「もっと早く相談すればよかった。今相談すればお金は返ってくるんですか?」という言葉をいただきました。差押えした預金は滞納税に充当済みであったため、お返しすることはできず、ご本人としても他の支払いが滞ってしまった結果になりました。この話からも分かるように、差押予告通知書を放置することは財産の差押えに直結し、生活に大きな影響を与えるため、非常に危険なものとなります。
差押えの通知を受け取ったら取るべき対応
- すぐに内容を確認する
- 可能であれば速やかに滞納税を納付し、完納する(納付したことを役所に連絡する)
- 納付が困難な場合は、役所へ連絡し分納の相談をする
- 放置は絶対に避ける(放置はさらなる滞納処分につながる)
まとめ
- 差押通知書は「実際に差押えが執行された」ことを知らせる書類
- 予告段階で相談すれば対応できる可能性があるが、本差押えに進むと解除は難しい
- 差押予告通知書が届いた時点で危機的状況と理解すべき。
- 最も大切なのは、放置せず、必ず相談すること。
👉 差押え通知が届いた方は、一人で悩まず、早めに役所や専門家に相談してください。
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