「滞納しているはずなのに督促状が届かない」
「役所から何の通知もないのに、突然預金口座が差押えられ使えなくなっていた」
実際にこのような話はよく聞きます。
法律上、督促状は発送しただけではなく、送達されて初めて法的効力が発生します。そのため、自治体も必ず書類を届いたことにする必要があるのですが、納税者の方からは「届いていない」と言われ、認識の食い違いが生まれることがよくあります。
なぜそのようなことが起こるのか、元徴税吏員の経験を基にして、この記事で詳しく解説していきます。
督促状は届いている可能性が高い
まず前提として、督促状は届いている可能性が高いです。
督促状は滞納者に対して正式に税金の納付を請求する書類であり、納期限を過ぎてから20日以内に発送しなければならないとされています(届くのが絶対に20日以内とは限りません。)。
また、督促状を発送することは、差押えなどの手続きに入るための前提条件とされているため、その効力を発生させるために、滞納税に対して自治体は必ず作成する書類になります。
そのため、納期限を過ぎていれば必ず送られる書類ですし、差押えされてしまったということであれば、前提として督促状が届いているということになります。
督促状は発送しただけでは効力が発生しない
しかし、単に発送しただけでは督促状の効力は発生しません。
効力の発生の条件は「送達」されること。
つまり、相手が書類を確認できるように届けることではじめて効力が発生するとされています。
では、自治体はどうやって送達されたと判断しているのでしょうか?
自治体は発送記録を残し、書類が戻ってこなければ送達されたと判断します。
つまり、送達を受けるべき本人がきちんと書類を受け取ったかどうかまでは確認しなくても良いのです(物理的に無理ですしね。)。
督促状を発送した → 戻ってこなかったからきっと届いているだろう
この推定が覆るような事態にならない限り、法的には督促状は届いたことになっています。
「自分は開封していないし、見ていない」という方もいますが、自治体としては本人が書類を見ていようが見てなかろうが、確認できる状態にすることができれば良いというわけです。
書類の送達方法も、
- 「郵送による送達」
- 直接手渡しや、ポストに差し置きする「交付送達」
- 住所などがわからないときに、自治体の掲示板などで保管している事実を伝える「公示送達」
などがあり、特に3つ目は一定期間が経てば書類が届いたことにできる仕組みとなっていますので、実態と違っていても手続き上は送達されているということにできてしまいます。
ここが、「届いた、届いていない」という認識の食い違いが生まれる原因です。
納期を過ぎて20日以内に督促状は出さなければいけないことになっていることから、基本的には届いているはずです。
- 間違って捨てていないか
- 他の郵便物に埋もれていないか
- ご家族の方が保管していないか
- 今住んでいる場所をきちんと届け出ていたか(住民登録上の住所と違わないか)
実は届いていたり、届かない理由を作ってしまっていることがほとんどですので、よく確認してみる必要があります。
送達の推定が覆ることもある
ただし、「実際には送達を受けるべき人に届いていなかった」と客観的な証拠が示されれば、この推定は覆ります。
この場合、自治体は改めて督促状を再送しなければなりません。
具体的な例としては、
- 督促状が何らかの理由で返戻されてきた
- 誤送された事実が分かった(お隣の家に投函されていたなど)
- 送達を受けるべき人が亡くなられていた(相続手続き中)
などが考えられます。
徴税吏員の現場での実務感覚
徴税吏員として勤務していたときも、督促状が返戻されていないため送達済みと判断し、差押えなどの滞納処分に進んだケースは多くありました。
というよりも、そこで納付も連絡もなかったため、滞納処分をしていると言った方が良いかもしれません。
そんな中でも、財産の差押えをした後に、まれに督促状などの書類を「受け取っていない」と主張されることもありました。しかし、実態は”中身を確認していない”だけであることがほとんどだったため、送達の推定が覆るようなことはありませんでした。
実務体験例
実際の体験談として印象に残っているのは、督促状を発送しても一向に納付も連絡もなかったため、財産の差押えを進めたところ、ご本人が怒鳴り込みながら来庁されたことがありました。
「納税に関する書類は何も受け取っていない」と主張されていたのですが、その手にはしっかり未開封の督促状を持ってたんですね。郵便物の中から役所の書類をまとめて持って来られた中に紛れ込んでいたようでした。
ご自身でもその事実に気づき、すっかり意気消沈されてしまいました。
督促状が届かなくても安心はできない理由
これまでの解説のとおり、督促状が送達され、その指定期限を過ぎれば差押えなどの滞納処分の手続きが進行します。
本当に送達が成立していなければ、自治体は一時的に手続きを止め、送達先の確認などをしています。
仮に送達先が不明だった場合でも、公示送達という手段で送達されたことになっていることでしょう。
つまり、いずれかの方法により、「送達はされている=滞納処分の手続きが進んでいる」場合がほとんどです。
そのため、ご自身が滞納していることを知っていて、「督促状が届いていないからまだ大丈夫」と考えるのは大変危険です。
本当に届いていないのか、ご自身で届かないようにしてしまっていないかを確認する必要があります。
知らない間に差押えされないための対策
- 転居時は必ず届出を出す
- 一定期間居所が変わるような場合は郵便の転送手続きや役所へ送付先変更しておく
- 役所からの封筒(特に「必ずご確認ください」などの表記)は必ず開封する
- 納期限を過ぎた場合は、書類が届かなくても早めに役所へ連絡する
特に単身赴任・離婚(別居)・長期入院・施設入所などで住所地と生活拠点が異なる場合、郵便が滞ることがあります。
そうしたときに「督促状が届かないまま差押えされた」というトラブルが起こりやすいのです。
まとめ
- 督促状は必ず送達される書類
- 自治体は発送した督促状が返戻されなければ送達されたと推定する
- 自宅に督促状が届けられる方法で送達するとは限らない
- 督促状が送達されると、差押えなどの滞納処分の手続きに進む
知らない間に差押えを受けないためには、郵便物を確実に受け取る環境を整えること、そして滞納があると気づいた段階で早めに役所へ相談することが重要です。
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